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「みんなの翻訳」は情報通信研究機構多言語翻訳研究室と東京大学図書館情報学研究室による共同プロジェクトであり、三省堂と国立情報学研究所連想情報学研究開発センターが開発に協力しています。
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謝辞
2011年9月10日
石油の意味合いは社会によってさまざまだ。米国、日本、西ヨーロッパのような先進国にとって石油は常習性薬物のようなもので、そういった国はひたすら、次から次へと石油を求める。石油によってどこにでも行くことができるようになる。石油は調理を便利にしてくれるし、快適な室温を提供してくれる。石油がなければ、こうした社会の人びとは自分たちの生活スタイルが維持できなくなる。このような理由から、多くの国々が石油を確保するために戦争を始める。
一方、石油や天然ガスの輸出に経済がきわめて高く依存する途上国にとって、石油の意味合いは異なる。石油が国内で発見されると、石油の輸出によって雇用が創出され、人的資源の向上が図られ、非石油部門の経済が発展し、インフラが整備され、社会サービスに資金が供給され、それによって国内経済が成長すると、途上国は期待する。だが、現実にそうなることはほとんどない。
石油によって災害や内戦、外国の介入、人権侵害、権威主義体制、環境劣化、汚職、不平等、その地域に特異な貧困がもたらされるということを、石油に依存する多くの南側諸国は思い知らされた。チャド、ナイジェリア、アンゴラ、エクアドル、イラクは、この厳しい教訓を学んだ国々の一部にすぎない。ピーター・マースは著書『Crude : The Violent Twilight Oil 』 で、次のように簡潔に述べている。「石油の豊富な国の皮肉な現象といえば、大半の人びとが裕福とは無縁であり、石油は繁栄ではなく苦難をもたらす、ということである。」 クリスチャン・エイドも報告書『Fuelling Poverty : Oil War and Corruption』にて、地球全体で、石油経済は貧しい人びとに無縁であり、彼らが電気や車を手にすることはなく、彼らが燃料とするのは石油ではなく薪である、と結論づけている。ナイジェリアの詩人でありフレンズ・オブ・ジ・アース(Friends of the Earth International)の現議長ンニモ・バッセィはこう書いている。「私達はそれを石油だと思っていた。しかし、それは血であった。」
ティモールの石油
東ティモールのように紛争が終結したばかりの国では、その状況は一層複雑である。数十年にわたって東ティモールを非合法的に占領していたインドネシアは、コノコフィリップスやウッドサイドなどの石油会社と契約を結んでいた。東ティモールは2002年に独立を達成したが、自らの天然資源について独自の決定をする自由はなかった。本来東ティモールのものである収益の多くがすでにオ-ストラリアとインドネシアに流れていた。
東ティモールの石油以外の経済はきわめて零細であり、健全な公的機関は整っていない。既存の機関は脆弱なままであり、法執行機関に力はない。監視機能が弱いので、官僚や石油企業の汚職の危険性は非常に高い。石油への依存度が高い東ティモールのような国家の経済を専門家は金利生活者経済と呼ぶが、国家はその収入を国民の租税からではなく、石油の収益から得ているだけである。国家と国民との関係は損なわれ、国民が官僚に説明責任を求めることはほとんどない。
インドネシア軍がこの国を破壊して以来、ティモールの人びとは混迷状態に置かれたままである。インフラの約80パーセントが破壊され、行政は崩壊して、人口の50パーセントが読み書きができず、その他の社会経済問題も急増した。国際社会から寄せられた数十億ドルの対外援助では国の経済を活性化するには至らなかった。
このような状況で、東ティモールでは、小規模だが石油資源が発見され、当初またとない恩恵と期待された。賢く利用すればこの小さな埋蔵量が東ティモール経済を好転させるであろう。このような資源によって、農業を代表とする非石油部門や、教育、保健などの社会サービスを促進することが可能であった。東ティモール首相シャナナ・グスマンは2009年の演説でそうした期待を簡潔に表明した。東ティモールの石油が賢明にしかも透明性をもって管理されれば、「私達の国のインフラを改善し、保健や教育のために投資し、経済を成長させるために私達自身の石油を使用することが主権国家として可能である。その結果、私達の国家建設が進められ、子孫にもっと明るい未来を提供できるのである。」
東ティモールの人口が少数であることを考えれば、こうした期待はありうることだ。しかし、未だにこうした夢は遥か彼方のことである。どうみても、石油が経済発展を導くことのないお馴染のパターンを東ティモールはたどっている。石油は恵みというよりむしろ災いの様相を帯びてきている。
「石油基金」の成功
東ティモール政府は、他の途上国と同じようなパターンをたどることを避けるために、それ相応の試みを行ってきた。2005年、東ティモール立法府は満場一致で「石油基金法」を採択した。ノルウェーの年金基金をモデルとしたこの法律は東ティモールの石油収入を管理する要である。この石油基金は、次世代との公平性、透明性、説明責任を原則とし、政府にとっては財政の安定確保ができるようになっている。次世代との公平を保証するために、資金が入った際、あるいは石油価格が上がったとき、政府が全額を使用しないようにガイドラインを定めている。またこの法律は、四半期業績報告書や年次報告書、監査報告書といった措置を通じて、透明性を確保している。最後に、この法律は議会や政府、中央銀行、市民社会組織などの公的機関の役割と責任とを定義している。前首相マリ・アルカティリはこう断言している。「石油による収益の良好な管理運営、持続可能な経済成長、貧困の軽減、将来にわたる政治の安定がこの法律の根幹である。」
議会は2005年に満場一致でこの法律を承認し、世界で最も優れた石油管理法の一つと目された。全般的にみれば、石油基金は東ティモール政府の財政安定化に向けた強力な基盤を提供した。2011年6月までに、石油基金の収支は80億3000万ドルに達し、そのうちの70億1000万ドルは米国準備銀行の口座に置かれ、残りは海外の株式や外国政府が発行する債券に投資された。
また基金は経済全般を安定化させるのに役立った。国際通貨基金は2010年の年次報告書で次のように評価している。「石油資金による公共支出の増加と2007年の旱魃から農業が回復したことによって、非石油部門の平均成長率は2007年から2009年の間に11パーセントの増加を示した。世界銀行による最新の算定でも貧困の発生率が2007年の50パーセントから2009年は41パーセントに減少している。」
「石油基金」の失敗
このような成功面もあったが、「石油基金」に不備な面があることも分かってきた。東ティモールの発展の現状は資源の災いともいえる様相を帯びている。その点について石油基金諮問委員会の委員であるヌーノ・ロドリゲスは筆者とのインタビューで次のように認めた。
まず、東ティモールの歳入の石油への依存が、短期的に減少傾向を示すことはない、ということだ。2005年から2011年まで、政府の歳入の90パーセント以上が石油によるものだ。一方、同期間の非石油部門の歳入は10パーセント未満であり、つい最近の2007年までには3パーセントだったこともある。つまり2005年以降、毎年、政府の年間予算の90パーセント以上が石油基金からの振替である。政府が年間予算を増額すれば、この比率は増える一方である。
次に、東ティモールの独立以来、生産部門の投資が極めて低いことである。これまでの数年間、数十億ドルの海外援助と政府の莫大な支出にもかかわらず、国内経済への実質的な効果は殆どみられない。未だに東ティモールはあらゆるものを輸入に頼っている。東ティモールの「銀行業務および支払業務機関」の報告書2010年12月号によると、製品とサービスの貿易赤字は8億8120万ドルに達しており、2008年の2億611万ドル、2009年の2億9700万ドルよりも増加している。政府の支出の70パーセントが国外へ流出していることを、近頃、財務大臣が認めた。この数字を重視して、「銀行業務および支払業務機関」は「政策立案者が財政赤字を解消する決定的な行動をとらなければ、また生産性のある投資をしなければ、2030年まで経常収支の赤字は上昇し続けるであろう。国は基金の大半とGDPのかなりの割合を毎年、海外へ流出し続けることとなるであろう。」と警告している。このデータは明らかに石油歳入からの膨大な支出が非石油部門の発展や、輸入品の代替すら促していないことを示している。
三番目に、紛争後の国家が直面する最大の課題の一つである失業問題は、紛争と社会不安を一挙に生み出しかねない時限爆弾である。石油産業はもともと多くの雇用を創出しない。それは石油産業が高度先端技術の産業であり、一般に高い教育を受けた人材を必要とするからである。ティモールにはこのような職種の資格を持つ人はほとんどいない。ティモールの場合、更に悪いことに、石油産業の中枢はオーストラリアで行われているので、石油に関連した雇用はほとんどなく、結局、波及効果はないに等しい。また、非石油部門の成長はみられないので、若者たちの雇用の機会はほとんどない。東ティモールの出生率は世界で最も高く、求人市場から常に多くの人びとが溢れている。東ティモールで最も雇用の多い農業部門でさえまだ発展途上にある。ティモールの人びとはベトナムなど近隣諸国からの輸入米に依存せざるを得ない状況である。
混迷する社会
石油の輸出によって経済成長はみられたが、その負の側面は社会的不平等である。現在、経済活動の大半が首都ディリで行われているため、農村地域のインフラは貧弱である。この4年間、政府は農村部のインフラを改善するために20億ドル余りを投入した。しかし計画や施行面での不備や、監視と品質管理が欠如しているため、都市部と農村部の隔たりは埋まっていない。
多くの人びとがディリで職に就こうとして農業から離れていった。莫大な政府の出費はディリのほんの一部のエリートに利益を与えたにすぎず、それも特に政府との契約を手にした人たちである。ディリ以外に住む人びとの多くには悪い影響ばかりであった。利益を共有できない人たちや低賃金で働く人たちからみれば、価格が、とりわけ食料価格が高騰して、経済成長は必ずしも大半の人びとには恩恵でもなんでもない。
東ティモールの事例は、石油へ依存することが恵みよりもむしろ災いをもたらすものであることを改めて示している。石油基金モデルはそれ自体、素晴らしい構想であるが、ティモールのような紛争後の国が直面する複雑な状況を解決するには至らない。野党議員ジョゼ・テシェイラは次のように述べている。「石油基金はグッドガバナンスの達成を助ける唯一の手法である。しかし資源にまつわる災禍を回避するためには、全ての当事者の政治的献身も必要なのである。」
本記事は、ハワイ大学マノア校の助成金による2010年夏期研究プロジェクトの報告書の要約である。現在、著者は東ティモール再建・開発研究所(La'o Hamutuk - www.laohamutuk.org)の研究員である。
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